なかよしバスケット

6/8
前へ
/8ページ
次へ
どなりたいのに、言葉がのどの奥から何も出て来ないのです。 人形の入ったかごを取り上げると、美咲になげつけてそのまま逃げ出しました。 それが昨日のことです。 「おどろいちゃったね。美咲がどなるなんて。あんなにおとなしい子なのに」 人形の声は自分の声に似ています。 だから、和子に同情してくれると思っていました。 「あんなに怒ることないのにね」 でも、人形はなぐさめては、くれませんでした。 「そうかなぁ。どうして美咲があんな風にいったのか、考えてみた?」 胸のところで和子を見上げています。 「そんなこと、わかんないわ」 ツンとふてくされました。 いわれなくても、和子は昨日の夜にそのことで、さんざん悩んでいたのです。 「今朝まで、バスケットの中に五人でいたの。 わたしたち、ずっと話をしていたわ。どうしたらいいのか、話合ったの。 だって、なかよしバスケットなのに、作ってくれた五人がケンカしたままなくて、悲しいでしょう? それで、みんな作ってくれた人の所に飛んでいったの。 わたしは、和子が来るのを待っていたのよ」 「それじゃ、バスケットの中にわたしの人形だけだったのは、みんながいじわるでしたことじゃないのね」 「そうよ。 でも、和子が恵美やナオにたのんだことを、よく考えてほしいの。 彩花にしたことを自分にされたらどう思うか」 「そんなこといったって……」 小人はため息をつきました。 「同じバスケットの中にいたとき、わたしがどれほど居ずらかったかわかる? わたしが話かけたって、誰も返事をしてくれないの。 あやまったって、怒ったって、誰も振り向いてもくれないの。 わたしを作った和子が恵美やナオにたのんだことだから、わたしが体験するべきだってことなの。 わたしの声は誰にも届かない。 自分には聞こえるのに、その声は誰にも聞こえていない。 肩をたたいても、目があっても、わたしがいないようなふりをするの。 わたしは生きてここにいるのに。 息もしてるし、心臓だって動いているのに、まるで透明人間みたいに……」 「わたしそこまでしろなんて、二人にたのんでいないよ」 和子は小人を抱きしめるのをやめました。 「これは、彩花の気持ちよ。 和子が彩花にしたこと。おぼえがあるでしょう? 話かけないように、目をあわせない、肩をたたかれても気がつかないように。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加