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どなりたいのに、言葉がのどの奥から何も出て来ないのです。
人形の入ったかごを取り上げると、美咲になげつけてそのまま逃げ出しました。
それが昨日のことです。
「おどろいちゃったね。美咲がどなるなんて。あんなにおとなしい子なのに」
人形の声は自分の声に似ています。
だから、和子に同情してくれると思っていました。
「あんなに怒ることないのにね」
でも、人形はなぐさめては、くれませんでした。
「そうかなぁ。どうして美咲があんな風にいったのか、考えてみた?」
胸のところで和子を見上げています。
「そんなこと、わかんないわ」
ツンとふてくされました。
いわれなくても、和子は昨日の夜にそのことで、さんざん悩んでいたのです。
「今朝まで、バスケットの中に五人でいたの。
わたしたち、ずっと話をしていたわ。どうしたらいいのか、話合ったの。
だって、なかよしバスケットなのに、作ってくれた五人がケンカしたままなくて、悲しいでしょう?
それで、みんな作ってくれた人の所に飛んでいったの。
わたしは、和子が来るのを待っていたのよ」
「それじゃ、バスケットの中にわたしの人形だけだったのは、みんながいじわるでしたことじゃないのね」
「そうよ。
でも、和子が恵美やナオにたのんだことを、よく考えてほしいの。
彩花にしたことを自分にされたらどう思うか」
「そんなこといったって……」
小人はため息をつきました。
「同じバスケットの中にいたとき、わたしがどれほど居ずらかったかわかる?
わたしが話かけたって、誰も返事をしてくれないの。
あやまったって、怒ったって、誰も振り向いてもくれないの。
わたしを作った和子が恵美やナオにたのんだことだから、わたしが体験するべきだってことなの。
わたしの声は誰にも届かない。
自分には聞こえるのに、その声は誰にも聞こえていない。
肩をたたいても、目があっても、わたしがいないようなふりをするの。
わたしは生きてここにいるのに。
息もしてるし、心臓だって動いているのに、まるで透明人間みたいに……」
「わたしそこまでしろなんて、二人にたのんでいないよ」
和子は小人を抱きしめるのをやめました。
「これは、彩花の気持ちよ。
和子が彩花にしたこと。おぼえがあるでしょう?
話かけないように、目をあわせない、肩をたたかれても気がつかないように。
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