1201人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「あんた見てるとさー!切なくなるよ!何のためにこんなに濡れながら、山登ってるの!?」
与作は美沙の言葉を聞かないフリをしているのか、そのまま足を進めた。
まるで美沙は俺の心の中を言葉にしてくれているような気がする。
土が濡れて、ぐちゃぐちゃになっている分、足腰に余計 力が入った。
頬を冷たくさせる雨は、山頂に近づくにつれて、さらに激しさを増していくような。
グダグダな体。水で服は重たくなり、地から離す度に靴は体を引っ張るようにズッシリくる。
「私、思った……んだよね。あ……んたと会ってさ」
美沙の声が無数に降り注ぐ雨のせいか、どんどんかすれていく。
「かぐや姫は絶対あんたの事、待ってるよ!」
「あんたが良いんだよ!」
すると、これまで進み続けていた与作の体がピタッと止まった。
「身分の違いを考えろ!」
一喝するような与作の怒声が響き渡る。
直後、音を立てて、美沙の体は地面に崩れ落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!