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「大丈夫だから……」
美沙はドロドロになった土の塊を手のひらで握り締める。指の隙間からは、潰れた泥が溢れ出した。
「はるか!何とかなんないのか!?」
俺はそばで立ち竦む はるかを見上げて、声を飛ばした。
「あれは怪我を治療する能力だから……疲労が取れるわけじゃないの。
でも、今転んで怪我した部分は治せるよ」
そう言う はるかの手には、既にティーポットが握られている。
いつの間に……!どこから出してるんだ。
「エンプティーインジェクションか」
聞き取れるか、聞き取れないかの小声で仁が呟いたが、俺はそれを聞き逃さなかった。
俺達が退くと、はるかは美沙の前で屈み込んで、ティーポットから水をかけ始める。
「気休めにしかならないけど……」
雨に混じり、ティーポットから透明な水がかけられる。
「安心しろ……。視界があまりにも見えなくて、さすがに俺も焦ったが、頂上はすぐそこだ」
斜面の上から届けられる与作の声。
俺は上に視線を向けた。
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