試練と休息

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地元の駅での別れ際。改札口で、はるかは俺の家とは逆方面の出口をニコッと笑って指差した。 「私、こっちだから」 「ああ。じゃあまた明日な」 「明日は頑張ろうね」 歩き出すはるかの背中を目で追っていく。 はるかは一度だけこっちを向き、笑顔で小さく手を振ってから、また歩き出す。 俺はそれに対して、自然と笑いながら手を振り返した。 やがて遠くに離れ、はるかの背中が駅で溢れかえる人混みで見えなくなる。 「さて、帰るか」 後ろを振り返り、自分の家の出口の方を向く。 ドンッ! 「いてっ!」 何かに勢いよくぶつかり、俺は地面に尻餅をついた。 「おい!コラ。気を付けろよ!テメー!」 見上げると、白いスーツを着た風貌の悪い男が、俺を見下ろしていた。首もとに光る金のネックレスと肩まで伸びた派手な金色の髪。不機嫌そうな表情で俺を睨み付けている。 「すみません」 男は白い革靴で、俺を軽く蹴飛ばす。 「ざけんな!」 俺は反射的に思わず両手を使って体を防いだ。 男は舌打ちをして、そのまま歩いていく。 嫌な奴だ。 せっかく今日は楽しかったのに……。 それからは何事もなく、俺は家に帰れた。時間は夜十時。明日はとうとうクエストの日だ。 早く寝て、明日に備えよう。 段々と明日のことを考え始め、緊張してくる。 それでも布団に入ると、意外にすぐに寝付けた。 寝るまでの頭の中では、はるかの笑顔が心を癒してくれていた。
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