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肌で感じる一瞬の死。この状態なら、いつ死んでもおかしくはなかった。
いつの間に背後をとられたんだ……? 焦りと不安と同時に、頭の中では自分が殺されるイメージを抱く。
そんなバカな!
声が出ないほど追い詰められた状況の中、俺は絡みつく腕を後ろを、振り返りながら強引に凪ぎ払った!
「なっ!」
振り払う腕は何の手応えも感じないまま、空を切り裂く。
俺の背後からヒカルの姿は消えていた。
「そこで待ってろよ」
今度は後方の少し離れた場所から声が聞こえる。
再び振り返ると、ヒカルはゆったりと洞窟に向かって歩いていた。
瞬間移動……? いや違う……。
瞬間移動のインジェクションを持つ奴がいるのは確かだが、これは何かが違う。
何だ? この違和感。
明らかに消えた一瞬後も、気配が残っていた。
そのまま何もせず、ヒカルは洞窟へ消えていく。
『良かったな。殺されなくて……』
光刀にフォローされる俺。辺りには刀から溢れた白い煙が漂う。
一つだけ間違いないことは、今ので俺の心は完全に折られたってことだ。
しかも、かなりバッキバキに。
あいつには敵わない。
それから一時間ほど待っていると、ヒカルは洞窟から出てきた。
よし。思ったより早く帰れそうだ。
こうして俺達は、メビウスの輪に向かうことになる。
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