開戦

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─────渋谷和也───── 寒い。外は白い吐息が出るほど寒かった。 羽織は薄く、身に纏う服を通り抜けて風が肌を冷やす。 仁が戻ってきてから一時間後。ついに新撰組のメンバー全員が屯所の外に集まる。 あと30分後にチーム対抗戦の開始だ。 遠く見える玩具のような一つの小さい建物。 濃霧が晴れて、今ははっきりと見える。 岩肌だけが目立つ広がる荒野と、漆黒の空の麓で小さく光るそれは、静けさに包まれていた。 あそこに敵がいる。 どうやらこれから、最後に全員で円陣を組むらしい。 その後は、隊ごとに分かれて陣形を整える。 実質、仁と美沙と同じ場にいれるのはこれが最後だ。 寂しい景色なのはともかく、250人全員が集まって円を組んでも、有り余るほど土地は余っている。 「あれ?天草総長がいないぞ……?」 周りの人間が口々にそう言った。 またいないのか……もしかして、戦場の地へ来てないのか?いや、さすがにそれはないか……。 巨大な円の中心には局長と副長が膝に掌を当てて、身を屈める。 まるでこれからスポーツの試合が行われるみたいだ。 「いよいよだね」 隣に立つ美沙は小さく呟いた。香水なのか何なのかわからないが、近い距離から女性らしい良い匂いが漂ってくる。 美沙の表情は不安に曇ったりなどは一切なく、強さに溢れた瞳に包まれていた。
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