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返事がない。でも荒い息遣いだけが聞こえてくる。
『これは相当な深手だな。一刻も早く治療が必要だ。ナイフは抜かない方がいい。大量出血で死ぬ可能性があるぞ』
背中に突き刺さったナイフは、あまりにも痛々しく、事の深刻さが打ち寄せる波のように、この状況を把握させる。
まだ助かるはずだ。
『どうするんだ?』
どこからか飛来してきた銃弾を、光刀の白煙が受け止めてくれた。
俺は屈みこみ、仁の首に手を回して上体を起こし、ゆっくりと背負った。
ずっしりとした重さと、今にも途切れそうな息。腹辺りからは、生温かい液体の感触が背中に伝わってくる。
白い煙は、俺と仁を二人一緒に包み込み、身を守る体勢に入った。
光刀を鞘に仕舞ってしまうと、煙が消えてしまうため、仁に刃が当たらないように後ろに回した手で持つ。
はるかがいれば、すぐにこんな傷は治してくれたのだろうか。
「ここを一旦、離れる」
落ち着け。
周りの状況を見ると、敵も味方も自分のことに集中しているため、うまくすれば離脱ができそうな気がした。
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