局長と神

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杏奈の指先からは淡い紫色の光が解き放たれる。 それは泡のように小さな膜を作り出し、仁の傷口部分に被さった。 「──!」 奇跡と言うべきなのか、絶望の淵に立たされた場所で、まさに神のような所業。 直後、みるみるうちに腹部の傷口が塞がっていく。 「私の回復能力はそんなに高くないから、完全に治すことは出来ないけど……」 仁の顔色が明らかによくなり、すぐに閉じていた瞼に異変があった。 ゆっくりと瞼が開かれる。 「杏奈……」 仁はすぐに名前を呼んだ。 「白いスカーフ……」 頭が良い仁は、この状況を把握したような表情を浮かべた。 「どうして杏奈がここに?メビウスの輪なのか?」 杏奈は切なそうな顔をして返事をした。 「向こうでちゃんと見てもらってね」 それが新撰組だということに、しばらく時間がかかる。 杏奈は大聖堂の奥に視線を移しながら、慌ただしく口を開いた。 「早くここから離れよ。もうすぐ三國志の曹操様がここへ来るから。逃げた方がいい」
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