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桜井は、鞄の中から携帯電話を取り出し耳に当てた。
『もしもし。うん。まだお店には行ってないよ』
彼氏だろうか。直感ではあったが、桜井の口調は、相手に心を開いている様な感じがした。
でも、私が劉備や孫権や曹操と接する気持ちと、どこか違う感じはするが。
張り詰めるのではなく、穏やかで和みがあるような。
何だろう。不思議な気分だ。
『うん。ごめんね。今、ちょっと取り込んでるから。すぐにまた折り返すよ』
本来、大切な人への接し方は、こんなにも優しくて暖かいのかもしれない。
『じゃあね。あっ。ヒカル。あと冷蔵庫に入ってるオレンジジュースは期限切れてるから飲んじゃ駄目だからね』
他愛もない会話。
自然と口から溢れた、彼氏であろう人物の名前。
電話を終えた後、桜井は私に向かって小さくお辞儀をした。
『今のは彼氏ですか?』
私の疑問に対して、桜井は小さく頷く。
私がヒカルを知ったのは、この時からなのだ。
ヒカルは桜井京香の彼氏。
私がヒカルに興味があったのは、桜井京香の彼氏であったから。
あんなにも真っ直ぐな女性の男とは、どんな人物なのだろうか。
だから桜井京香の失踪を知った時から、ヒカルと同様に私も彼女を探していた。
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