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「…すまない、吏九。」
我は吏九の出て行った扉に、一人呟く。
我は2つ嘘をついた。
ひとつはマナの話し。
本当は、マナが枯渇すれば、我は消える。しかも、近い内に。
吏九を心配させたくなかった。悲しんでほしくなかった。こんな気持ちは初めてだった。一緒にいるだけで、胸が高鳴り、顔が赤くなり、爆発しそうになる。
「…しかし、我にはこの感情がなんなのか分からぬ。」
そう、だからもう1つ嘘をついた。
我はここから出て行く。
初めて会ったときは、ただ波長が合うというだけで、彼を契約者に選んだ。無礼な奴だが、パートナー(奴隷)が必要だからと、無理やり居座った。
しかし吏九は、始めのうちは嫌がったが、受け入れようとしてくれた。そんな奴初めてだった。
「兄様みたい……か。」
しかしこれはきっと別の感情。何かは分からないが、兄妹愛ではない、いけない感情だ。そう思って押し殺すしかない。
「…放火魔か。」
せめて、彼が安全に暮らせるよう、最後の仕事をしよう。
「これはきっと、我らの問題のはずだ。」
そう呟き、我はこの家から出て行くのだった。
「まああれだな、暇だな!」
「……暇ならあっちに行ってろよ、谷口。」
教室について、一息つこうと思ったらこれだ。席の前に、当たり前のように近づく谷口に、俺はため息をつく。
今日は早めに学校に着いたから、まだ生徒もまばらである。
「そういえば、今日は目にクマができてるな、どうした吏九?」
「どうしたもこうしたも、昨日は青い炎のせいで寝不足なんだよ…。」
「はっ?」
まあ谷口が知らないのは当たり前か。しかしあれ程の火事なら、近くに住む夕季なら気づいたはずだ。
「おい夕季、ちょっといいか。」
谷口は無視し、俺は近くで他の女子と、井戸端会議をする夕季を呼んだ。ホント女子って、喋るの好きだな。
「ん?なになに?」
近づく夕季。
「昨日の夜、俺んちで何かなかったか?」
「え?」
聞き返す夕季。確かにこれじゃあ意味が分からんな。自分の家の異変を家の住人が聞いているのだ。
「と、とりあえず何もなかったよ?」
わけも分からず質問の回答をする夕季。こんな質問を返すとは、出来た幼なじみである。
しかし、
「…夕季が気がつかないとはな。やっぱり……。」
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