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「失敗した。」
私、本間雫はまだ夢の中にいた。
夢の中に現れる男は、柳瀬くんを殺しに私の夢から出ていった。
私は自分の失態を呪った。夢の中の男が向かう先はいつも放火が起きる。それは、その炎は私が頭の中に浮かべた相手を確実に殺す炎。
その炎が人を焼き殺すたび、私は自分のせいだと思っても、直視しないようにしてきた。あれは私のせいじゃない。私の夢に現れる男のせいだと。
けど、男が柳瀬くんの家に向かったとき、よくわかってしまった。
私の責任だと。
誰でもない、私自身の選択が、亡くなった人たちが焼かれた理由だと。
帰ってきた男はいつもと違い、どうやら柳瀬くんを殺すのを失敗したらしい。
だがそれがどうしたというのか。
私は選択したのだ。たとえ悪人と思ってなくても、柳瀬くんを……。
「失敗した、失敗した、失敗した、しっぱいした、しっぱいした、しっぱ―――」
男はいつもと違い、何かを怖れるように自分の失敗を嘆いている。それがいつもと違い、不気味に感じる。
そう、いつもと違う。
そうだ、夢が覚めないのだ。まるで現実から引き離されたように眠りから覚める気配がない。
いつもなら男がこの夢の中に帰る前に目が覚めるはずだ。
何かがおかしい。
そう思い私は男の顔を見る。
男の顔はいつも以上に、一層モヤがかかり、表情はわからない。だが、いつもと違い、顔は天を仰いでいた。
「……はい、……はい、……しかしマナが足りない……。」
天を見つめ、ぶつぶつ呟く男。
「……はい、……はい、……はい。」
まるで誰かと話しているような呟き。そして男はこちらに顔を向けた。
「な、なんですか?」
嫌な予感がした。その顔は表情はわからないが、まるで意思を持たない。そんな男に私は恐怖した。
「……契約だ……マナが足りないんだ…………。」
「え?」
ゆっくりと近づく男。後退りしたいが、夢の中のせいか、急に体が動かなくなる。
「……契約だ……。」
「こ、来ないで!」
「……契約……。」
夢の中が、私の世界そのものが黒く染まっていくような感覚が、すこしずつ近づく。それはまさに恐怖そのものだった。
「……我が名は。」
「嫌、いや嫌イヤ!」
「……我が名は『ゼポン』。貴様の契約主である!」
「いやぁぁああーーー!!」
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