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「トゥルグット・ベイ!どうかご助力頂けないだろうか?」
「トゥルグット」とは、オザル首相のファースト・ネームである。
また、男性に対する尊称の「ベイ」をつけて森永氏は彼のことを呼んでいた。日本語でいう「様」のような役割を果たしている。
『どうしたのだね?ドストゥム・モリナーガさん』
「ドストゥム」は、トルコ語で「親友」という意味を指す。
また、オザル首相は日本通らしく「さん」をつけて森永氏のことを呼んだ。
いつもと変わらぬ声。この声の主が森永氏が繋がりを持つ唯一の有力者であり、日本の最後の頼みの綱であった。
「トゥルグット・ベイ。実は……テヘランに日本人が孤立状態となっています。にも関わらず、日本からは救出の手立てが無いのです……」
『テヘランにいる日本人が孤立状態?どういうことだモリナーガさん。日本の航空機は?』
森永氏はテヘランでの日本人の窮状に陥った過程を説明した。
本来トルコには何の関係もない事であり、その上トルコ自身も600名のトルコ人をイランから脱出させねばならない状態だった。
森永氏もそれは承知の上で、こんな事をお願いできるのはあなたの他にいません、と必死で訴えた。
オザル首相は森永氏の話を終始黙って聞いていた。
『…………』
いつもならすぐに返事をするのに、その時は話を聞き終わっても何も言わずに沈黙を続けていた。
森永氏は固唾を呑んで、彼の言葉を待っていた。
『Yes』とも『No』とも返ってこない。
この間の沈黙が、森永氏にはこの上なく長く感じられた。
もし……もし断られたら……という不安が心の中を支配していく。
オザル首相は未だに電話の向こう側で沈黙を続けたままであったが、やがて……
『……モリナーガさん』
ーーオザル首相が口を開く。
『ーーーーーー』
「……っ!?」
森永氏の目が見開かれたのは、その数秒後であった。
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