バトンのその先に

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 部屋に入った途端、線香の香りに包まれる。入ってすぐ、正面には仏壇が飾られていた。  線香に火をつけた所で、追いついてきた男も隣に座り手を合わせる。  不謹慎だとは思ったが、次はいつ会えるのか解らない。故に、手を離したときに聞いて見た。 「お前は幸せだったのか?」  それを言いた瞬間、キョトンと目を合わせゆっくりと視線を落とす。 「そうだな、大変だったが。一人じゃ無かったしな。親父が家を売って此処に転がり込んでから、思い出は数えきれない程出来たよ」 「……………………そうか」  二人は目が合うと、子どもの悪戯をしたように何故かニヤリと笑いあった。 「それに、あの子に病気が遺伝されなかった事が、何よりの救いだよ」
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