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翌日の夜のことだ。
日曜日の夕食時だろうに、今日は比較的閑散としている。
ガレージなのだからもう少し車が動いていると践んでいたのだが。
分譲マンションのガレージの隅にある小さなベンチに腰掛け、京介は一人そう思った。
今日もやはり昨日と大して変わらない地味なシャツとジーンズに身を包んでいるが、一つだけ昨日と違った身嗜みなのが、彼の左腕の手首に安物ではあるが時計があるということ。
夏の夜風に黒髪を泳がせながら、京介は左腕を持ち上げ時計の針を確認した。
──八時十五分。
「明日の晩の八時、ガレージまで迎えに行くから」
昨日言われたことだ。
彼女……櫻井真澄は最後に自分にそう言ったのだ、確かに。
つまり一体どういうことなのかと言うと、これはもう遅刻と呼んで然るべきである。
探偵を自称しておきながら時間にルーズとはこれ如何に。
ハァと小さく溜め息を溢しつつ、首だけは先程から頻りに横運動を繰り返しており、周囲に人の気配は無いか神経を張り巡らせる。
それも当たり前だ、いつ何処から闇金の強面が自分を拐いに来るか予想が着かないのだから。
妙に静かなこのガレージが、普段なら何とも思わないだろうに今の京介にとっては有り難くない話。
せめて少しでも人の通りがあれば気も紛れたのだろうが。
……と、その時である。
一台の黒いセダン型の車が、自分の前で静かに停まった。
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