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緊張感が突然爆発したようで肩が跳ね上がった。
勢い余って心臓まで跳ね上がって口から飛び出してしまいそうだ。
しかし、果たしてこの車は自分と関係あるのだろうか。
昨日会った彼女はどう見ても車を運転するようには思えず……そもそも免許を持っているのかどうかすら不明だ。
まぁそう勘繰る京介も免許は取得していないから人のことを言えた身分ではないのだが。
エンジン音はそのままに、運転席から一人の人物が降りてきた。
「お前が錦京介か?」
声色で既に分かった。
やはりこの『女性』は、真澄とは別人であると。
堂々と自分の眼前で煙草を吸っている彼女は、自分より頭半分程度背が高く、黒いスーツを着て今は暑さからか上着を脱いでいる。
何より一見して目立つのは、彼女の短髪が黒色でなく鮮やかな紺色であることか。
パッと見ただけでは性別の判断に困る容姿と服装だが、それでいて京介が彼女を女性であると即座に理解出来たのは声色と、ブラウス越しでも分かる女性特有の胸部の膨らみがあったからだ。
しかし女性と言えど体格は男性の自分を上回っており、紺色の髪がそう錯覚させているのか、威圧感が半端ではない。
掌に滲んだ汗を拭おうとするより早く、目の前の女性は吸い終えた煙草を携帯灰皿に捩じ込むと。
車を指差し、単刀直入に。
「さっさと乗れ」
──あぁ、そういうことか。
京介は察した。
そして同時に、つくづく不幸続きな自分を心から呪った。
まさか本当に、真澄よりも先に、闇金の者が来てしまったとは。
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