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頭だけは冷静に察したが、身体は……本能は中々自分の言う通りに動いてはくれず、掌や額から汗が一段と流れるだけで両足は一歩も歩み出す様子が無い。
完全に縮み上がってしまっている京介を見て、女性はチッと大きく舌打ちを鳴らし、京介に一歩迫りもう一度言う。
「聞こえなかったのか、乗れ」
この半ば脅迫のようにすら思える女性の言葉に、しかし京介も簡単には首を縦に振れない。
そんなことをしてしまえば本当に自分は終わってしまう。
「いっ……嫌です……!」
「…………アァ?」
それは猫が虎を引っ掻くレベルの意味も無いものかもしれないが、兎に角京介は抵抗してみせた。
涙ぐましい虚勢ではあるが、瞳も真っ直ぐ女性を捉えている。
が……それに対してこの女性。
ついに京介が最も恐れていた行動へと出る。
一気に不快感や苛立ちを露にし、京介の胸ぐらを掴んだのだ。
「ぅぐッ……!?」
「乗りてぇかどうかを聞きたくて言ったんじゃねぇんだよ。
黙ってさっさと乗れ……!」
そしてそのまま京介の身体を……女性でありながら、片手で楽々と引き摺っているではないか。
掛け離れすぎた力の差に抵抗など無駄骨でしかなく、為す術も無いまま京介は車の後部座席へと放り投げられてしまった。
京介も慌てて身を起こすが、何をするよりも早く女性は運転席へと戻ってきており、ガチャリと車のドアに鍵が掛けられた音も。
(そんな……何で……?
何で僕だけが、こんな……!?)
絶望へと落とされた京介を乗せ、車は静かに走り出した。
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