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回り出すタイヤのホイール。
急変を繰り返す窓の外の景色。
京介が感じた悪寒は確信に近く、このままでは自分は海の底に放り出されても不思議ではない。
そんな危機的状況に焦り、相手が誰だの考える余裕も無く声を大にして抵抗を重ねた。
「まっ、待ってください!
何処に連れて行く気ですか!?」
「自分で考えろ」
「だっ……第一、借金は僕の父が勝手にしただけであって、僕自身は何も関係ありませんよ!
それに、父が今何処に居るのかもさっぱり見当すら──」
────クスッ。
車内の何処からか、やや抑え気味な女性の笑い声が聞こえた。
運転席の女性に気を取られていて全く気付けなかったが、助手席にもう一人座っているではないか。
何故今まで気付かなかったのか、と内心呆ける京介。
どうやら微笑を洩らしたのはこの女性のようで、次いで運転席からまた大きな舌打ちが鳴った。
「何笑ってんだお前、気色悪い」
「いや、後ろの彼のテンパり具合が滑稽で面白くてね」
京介は口をポカンと開けたまま、女性二人の会話に耳を傾ける。
「あとお前、ちゃんとこの喧しいガキに説明はしてやったのか?」
「あぁ……してないね」
「してねぇのかよ!
そりゃ何も聞かされねぇまま車に叩き入れられたらビビるわ!
何を考えてんだお前!?」
「アンタの少なくとも三倍くらいは色々と考えてるよ」
ここで、ポカンと開いた京介の口から感嘆の声が短く洩れた。
自分は『知っている』。
助手席に座っている女性を。
「櫻井……さん……!?」
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