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どうやら真澄よりもこちらの少々威圧的で男勝りな紺色の髪の女性の方が会話に難くないようだ。
失礼な比較ではあるが。
「いっ、いえいえいえ!
こちらこそ考え無しに抵抗したりしてすみません、えーっと……」
と、ここでまた何とも遅くなったものだが、京介は気付く。
この女性は何者なのだろうか?
真澄は『晃』と呼び捨てていたがまさか自分まで初対面から名前を呼び捨てるのは良くない。
見たところかなり若いようだが、それでも自分や真澄より歳下とはいかないだろう。
そもそもして、真澄自身の具体的な正体も自分は知らない。
知っているのは年齢と名前だけで職業も経歴も、この二人がどんな関係なのかも、勿論知らない。
故に、勢い良く謝り返したはいいものの何と呼ぶべきか言葉に迷い京介は言葉を詰まらせた。
「……あぁ、そういや自己紹介もしてなかったっけな。
ほら、これウチの名刺」
そんな京介の挙動不審な口ごもりをバックミラー越しに即座に察知した晃という名の女性が、胸元のポケットから取り出した掌サイズの紙を一枚、京介が座る後部座席へと放り投げる。
京介はそれを見事にキャッチ──とはいかなかったが、音も立てずシートに放られたその紙を拾い、書かれた文字を読み上げる。
「『便利屋 四季』……?」
『便利屋』
まるで馴染みの無いその職業に、京介の首が傾く。
対して前に座る二人、京介の理解の度合いなど意にも介さず。
「アタシは便利屋『四季』の所長代理、海原晃(カイバラ アキラ)だ」
「同じく所員、櫻井真澄」
そう、自己紹介をしたのだった。
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