第1話

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                 プロローグ 「ずっと これからもずっと  オレたちはオザキを歌い続けていく」 泣きながらヒロは叫んでいた。 もう何曲 歌ったのだろう。 かすれた声で、立っているのが やっとのありさま、 そんなヒロをバンドのメンバーが 支えている。 ヒロたちを取り囲む大きな人の輪は、 幾重にも広がり厳粛な時を共有している。 こんな遅い時間なのに誰一人帰ろうと しない。 ヒロの言葉を 次の歌を 固唾をのんで 待っている。 でも私は帰らなきゃ。 もっとここにいて、次の歌も聞きたいけど もうタイムリミット。 ヒロにさよならも言わず、 輪に背を向けて、 未練がましく一度だけ振り返って 私は一人で公園通りを駅の方向へ 歩き出した。 このまま朝まで 歌っているのかな。 さっきまでは帰宅を急ぐサラリーマンや 通行人が一瞬 何事かと立ち止まり この集団を見ては通り過ぎて行った。 そういう人たちももういない。 青白い月 こんな遅い時間に私はめったに外を 歩かない。                            
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