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「あーやっと着いた」
ドアが開くと適温となっていた車内に冬の空気が入り込む。
狭い車内に何時間もいたからか外に出ると解放感を覚えた。何故か出て来ようとしない怜に気付き車内を覗き込む。
「どうした?」
どことなく不安そうな瞳と合う。
「……やっぱり無理ですよ。手土産1つありませんし。大体人の家に泊まるような準備してきてないです」
「大丈夫大丈夫。何ここまで来て怖じ気づいてるんだよ」
怖じ気づいてなんて無いです!とお決まりの反論を貰うと同時に怜の腕を掴み引っ張り、視線の距離を縮める。
「今さら逃げるなんて許さねぇからな?」
ニコッと意識的に笑って見せれば、怜はグッと身構えたが、ノロノロと自分で地面に足を着け車から降りた。
「じゃあ荷物は俺の部屋に運んで、怜の部屋を用意しとくように言っておけ」
「かしこまりました。鈴城様のお部屋は既にご用意させて頂きました。中の者が案内いたします。それでは私は失礼いたします」
新谷が丁寧なお辞儀を残して車を片付けるため戻った。
「で、なんでお前そんなに緊張してるわけ?」
隣りに視線を移すと恐々した様子で俺の家を睨みつけている怜がいる。俺の言葉に反抗心の多く含まれた反論を投げられると思ったが「…分かんないです、緊張します」と意外にも素直に認めてくる。
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