勝負のその後

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「何黙り込んでいるんですか?」 「…何もねぇよ。もう入るからな?」 落ち着いたのか諦めたのか止めさせる声は聞こえなかった。怜は緊張を隠しているような面持ちで俺の後ろで待っている。 「横に来いよ」 応えない怜は無言の反抗を実践しているようだ。 まぁ今は怜もいっぱいいっぱいなんだろう。と甘やかして怜の睨み付ける扉を躊躇も無く開けた。 「ただいま」 「…おじゃまします」 不安感の混ざる余所余所しい声に思わず吹き出してしまう。間もあけず後ろからパンチを繰り出してくるところが更に笑えた。 人の家を訪れる機会が少なかった事が窺える。怜の気持ちが伝染したのか俺も怜を家に招くことを不思議に感じた。 「お帰りなさいませ渚様」 奥から使用人が出て来て頭を下げた。顔を上げた後に俺の後ろに視線を向け安心させるような笑みを浮かべる。 「お待ちしていました鈴城怜様。それではお部屋にご案内させて頂きます」 「待て、俺が連れてくから場所だけ教えろ」
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