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リビングからは死角になっているキッチンに入れば、無意識に入っていたらしい力が抜ける。それ程緊張していたと云うことか、自分の事なのに今実感させられていてちょっと納得いかなかった。
視線を感じて顔を上げるとニヤニヤと口許を緩ませる渚と目が合う。
「……何ですか?気持ち悪いですよ」
「酷ぇ言い種。せっかく助けてと縋ってきたお前を静かな此処まで連れてきてやったのに。ここは感謝するところじゃねぇの?」
僕の額を人差し指で弾いた渚はまだ愉しげに口角を上げている。
何でそんな自信満々に答えてしまうんですか。
見透かされている事に驚いて、腹が立って、それでも嬉しさなんてものもあって、こんなにぐちゃぐちゃな整理も出来ないような気持ちにさせるのはこの目の前にいる男くらいだ。
「勝手な妄想は迷惑です。僕は飲み物を淹れる為に来たんですよ」
「ふーん。2人きりになった途端に強気になって、あーあ緊張し過ぎて俺に助けを求めてきた可愛い怜はどこに行ったんだか。な?」
「……知りませんよ。幻覚でも見えてたんじゃないですか?危ないですよ?」
今僕が何を言って反論してみたって渚には届かない。優位に立ち勝ち誇った顔で僕が必死に足掻いて繋ぎ合わせる言葉を面白がっているだけだ。
渚に嵌められて言葉に詰まる前に止めようとティーカップや珈琲の場所を渚に尋ねる。
会話を不自然に終わらせた僕に渚は何か言いたそうに視線を送ってくるだけで、その場所を指差しで教えてくれた。
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