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降ってくる敗北感に打ち拉がれていると、渚の腕を掴んでいた僕の手が形勢逆転をそのまま表したように渚の手に捕まった。
その素早さと余裕な表情に抵抗する気にもならない。
「俺の勝ち」
渚が嬉しそうに笑う。
何かを言い出したいのに、調子に乗る渚に言いたい言葉は頭の中で全く形にならない。その表情が僕の思考と行動を鈍らせるのだ。
「怜」
ありきたりな色なのに渚という存在感を魅せ付けてくる真っ黒な瞳と僕の視線が重なる。
「…なんですか?」
息苦しさは渚の纏う雰囲気に呑まれてる証拠。逃げられない。
「このまま離したくないな」
困ったように微笑む渚に困ってるのは僕の方だと反論したくて堪らない。冷静さをかき集める。
「…なに言ってるんですか、このままじゃ珈琲も淹れられないじゃないですか。離れてください」
「そういう事じゃなくて」
そう音を残した渚が捕まえていた僕の腕を引く。更に近付く距離に狼狽える自分は悟られないように押し込めた。
「…してぇな」
何を?と聞く前に渚の顔が近付いてくる。その艶を纏う瞳と合ってしまって反抗なんて出来ない僕はギュッと目を瞑った。
「「お兄様!!怜ちゃん!!」」
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