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「図書館では静かにな?」
優しいような口調であっても僕の反応を面白がっていることが窺える。僕は何にも面白くない。
「頷いてくれたら、これ返してやる。俺とキスするか?」
本を掲げ見せてくる渚は僕の様子を覗くように眺めているらしい。口を塞ぐ手が退かされないという事は反抗する言葉や文句はいらないと告げられていると同じ事だ。
僕は思い切り首を横に振った。渚の手を払い落とし、キッと鋭く睨み付ける。
「何でそんな」
僕の言葉を遮ったのは今度は手では無く、強引に奪うようなキスだった。
書棚に押し付けられ、口内を弄るような行為に翻弄され思うように抵抗できない。
「んっ……んんっ!」
僕が躊躇もなく首を横に振った事がかなり気に入らなかったようで、いつもみたいに僕のペースを待ってくれない。
酸欠でふらっと足元が覚束なくなってやっとキスが終わった。長い時間だったが、どのくらいだったかなんて推測する機能はとっくに停止していた。
「っ、ほんと……しつこい……っ」
新鮮な空気を取り込む為に言葉は上手く音にならない。初めてキスで殺されるかと思ったと本気で馬鹿な事を思いながら犯人を見上げる。
「…良い表情」
渚の呟くみたいな声に反応しきれずにいると、色付いた笑みを見せた渚に気がつく前に2度目のキスが降ってきた。
足元に落ちた2冊の本の事や渚への説教の事などの思考はさっきとはまるで違う戸惑う程優しいキスに流され、消えた。
…本当にずるい人ですね。
導かれるまま渚の首に腕を回した。
ーfinー
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