第1話

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 なかなか来られなかったのは私のせいではないのに。  そしてこの雨も。 「じゃ、雨の中、出掛けてみる?」  二人で馬を走らせて、 森の中でランチを取るはずだった。 一年でもっとも美しいこの季節。 風を切って自由に森を駆け抜ける喜びは、 一度味わうと忘れ難い。 「そんなこと、 させられるわけないでしょう」  漸く腰を上げた彼がゆっくりと歩み寄って来る。  手にしたトレイを受け取って、  サイドボードの上に置く。  そんな何気ない仕草にさえ、    一縷の無駄もなく、  もちろん、  ソーサーにお茶を零すなんてことはない。 「……でも、約束した」  思わず声に出た呟きを聞きつけて、 彼が形の良い眉を上げた。
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