おまえの名前を知りたいんだが

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教室の場所さえ教えれば、これ以上自分が嫌な気分になることもないし、相手が不快な思いをすることもない。達也としては断る必要はなく、懇切丁寧に教室までの道のりを教えてあげた。 できることなら二度と出会いたくない下級生を愛想笑いで見送り、本来の目的である社会科準備室へ向かった。 先生に見つかれば確実に注意されるであろうスピードで。 すこしゆっくり歩いて、地味な嫌がらせをしてやろうなんてレベルのタイムロスじゃなかったからだ。途中でなにしてたんだと問い詰められる可能性まで考えてしまうほど、あの白衣と話してしまっていた。 「失礼しました」 しかも、プリントは社会科準備室にはなかった。中にいた教師に別れを告げ、教室へと急ぐ。 プリントを探すのに手間取った。なんて言い訳を思いつく達也であったが、準備室にいた先生に確認されると即アウトだと気づき、言い訳は諦めた。 さて、角を曲がって見えた光景をどうしてくれようか。 達也が頭を抱えたくなった理由は、つい数分前に一年三組の教室へ向かい、到着していなければおかしい白衣の彼女だった。 実は今年から新規投入される予定の学校の怪談だったりするんじゃないのかと、達也は本気で思った。 だって、最初に見た時と同じ場所で同じ姿勢をとっていたから。 しかし、二度も付き合ってやる義理はない。怪談『美少女もどき』の恐ろしさは重々承知だ。しっかり噂を広めておいてやるからなと自己完結させて、達也はそそくさと美少女もどきの後ろを過ぎ去ろうとするが、思っていたよりも学校の怪談はしつこかった。 「わたし、美少女ですよ?」 「もどきじゃね?」 達也は気付く。 この怪談は、「美少女」という単語に対して「もどき」という単語で返事をすることが本質だったのか! なんと恐ろしき美少女もどき! と。 実際に怪談でないことくらい達也はわかっている。ただの現実逃避だ。 そして、白衣の少女が『美少女もどき』よりも恐ろしい状態になっていることも達也はバッチリ理解していた。 「もどき、って、なんですか……?」
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