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白衣のポケットに手を突っ込んで、暴力と言う名の支配でこの場に君臨している少女を前にして、達也は教室まで案内することを決意した。
諦めた訳ではなく、単にそうした方が効率的だと判断したのだ。担任に怒られることを覚悟したことは確からしいが。
「それで、おれはおまえを教室まで案内すればいいってことでオーケー?」
「いいえ。道を説明してくれれば結構です。むしろ消えてください」
「だから、その方法で失敗したから案内するって言ってんの!」
「あなたの説明不足が原因ですっ!」
「……そうだな」
人は学ぶ。ここで無駄な言い争いをするよりも、素直に従っていた方が早くこの下級生と別れることができると。
「わかればいいんです。じゃあ、いきますよ」
人は学ぶ。教えたはずの道と真逆に進んでいく少女に従うだけでは何も解決されないことを。
「そっちからだと遠回りになるからな?」
「っ!? わ、わかってます! 今のは、あなたを試しただけですから!」
迷っているのだから、彼女に試すための基準はない。そもそも試すことができるのなら、学校の中で迷うことなんてなかったはずなのだから。
しかし、そのことに達也は気付かない。この言い方でも怒るのか……、などと呑気に考えている。
方向転換した少女は達也の前をさっさと通り過ぎてしまい、達也はある程度の距離を置いて少女の後ろをついていく。
案内する側が前を歩くのが普通なのだろうが、達也は、後ろから「そこ右な」「そこの階段、下じゃなくて上だから」と言う風に声をかけることで気怠く案内している。
白衣の少女の外見は確かに美少女。だが、今の達也には、出会った直後は小鹿のそれのようにきれいに見えていた脚も、片手でポッキリ折れる爪楊枝かモヤシにしか見えていない。 不思議なもんだな~、と思いながら、達也は最後のアナウンスを行う。
「おまえの教室、もうひとつ向こうだぞ?」
一年二組のドアに手をかけていた少女が達也に礼を言うはずもなく、慌てた様子で一年三組の教室に入っていった。
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