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普通にイラついて、さっそく態度も口も悪い問題児のお守を放棄した達也であったが、今は昇降口近くの階段に座り込んでいる。
本人はどんと構えて白衣の彼女を待っているつもりなのだが、実際には三十秒に一回は視線を左右に振り、二分に一度は伸びをしたり屈伸をしたりアキレス腱を伸ばしたりするふりをして、周囲を確認している。大した小心者っぷりである。
不審者極まりないが、達也は達也なりにあの方向音痴のことを心配しているのだ。探しに行きたいとも思っている。
しかし、その間に昇降口にたどり着かれてしまっては、待っていたことが無駄になってしまう。
さてどうしよう。そのような小さな打算で動けずにいる達也の後頭部に軽い衝撃が走る。
スパーン、と。
こんなときに誰だこの野郎っ。と首をひねって顔だけ後ろを向けると、こんな状況を作り出したやつその二がいるではないか。達也が何も言わずに前を向くと、渡辺は少し強めにスパーンとやった。
「うちの子はどうしちゃったの?」
「いらないって言われたんで」
「うわ~……君、モテないでしょ?」
うっ、とうめいて肩をすぼめる達也を見て、渡辺はもう一発スパーンとお見舞いする。
「ちょ、殴りすぎじゃね!?」
「愛のムチです。君がなに言われたか知らないけど、あたし、一応あの子にも君に任せていいか確認取って君を呼び出してるんだから、本気で嫌がってるわけないの。それくらい察してあげなさい」
「マジすか……」
それを聞いて、達也が抱いていた一握りの罪悪感が一気に心に広がった。もとより最終的には探しに行くつもりだったのが、謝りに行くという目的付きになってのしかかってくる。
「君が見つけるより先にここにあの子が来たら引き止めといてあげるから、早く探してらっしゃい」
「うっす」
達也は立ち上がり、渡辺にひょこっと首を前に出すように会釈をして、ゆっくりと階段を上がっていった。
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