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達也は廊下を駆けている。わけではなく、ゆっくりと階段を上っている。
壊滅的に方向音痴な彼女がどこを歩いているかなんて分からない。あてもなく探してもそのうちに見つかるだろうが、達也がそれをしないのは面倒だからである。
悪いことをしたな、という思いは達也の中に確かに存在する。しかし、それを燃料にギアを上げて昨日出会ったばかりの毒舌女子を探そうなどとは思わない。
とりあえず見つけて、とりあえず謝って、とりあえずこれから先のことを相談できればそれでいいと考えるのが荒木達也なのだ。
だから階段を上っている。
県立沼川田高校には、三階建ての校舎が三つ平行に並んで立っていて、それを二階にある渡り廊下が貫いている。上から見るとちょうど『王』の字のように見える。
達也は、王で言うなら最後の一画の校舎の三階まで上ると、渡り廊下がよく見える位置の教室に入った。
偶然その教室には誰もおらず、一直線に窓際にまで行くと、向かいの校舎を見渡す。とは言っても、見えているのは真ん中の校舎の半分だけ。
達也はそれ以上の努力をしようとはしない。だが、何も考えずにこういう手に出てはいない。
(よくもまあ、昇降口までたどり着かなかったもんだよな)
昇降口は、達也が今いる校舎の一階にある。そしてそこには現れなかった。なら、この校舎に入るときは渡り廊下を使っていたことになる。よって、渡り廊下を見張ることにした。
加えて見えている部分に対象が現れ、校舎の端に向かって歩いている場合、中央校舎の二階のど真ん中にダッシュで移動すれば解決だ。
どういうことか。
一階か三階を通れば、次は二階を通る。もしそのまま二階を素通りしても、渡り廊下は二階にあるから、いずれは通る。
同じ理論で二階を通っているのを見かけた場合も、いずれは引っかかるということだ。
最初から二階のど真ん中にいないのは、もし万が一、奇跡的にあの方向音痴白衣毒舌少女が、一階の渡り廊下を通り、目的地の下足ロッカーにたどり着くことを考慮しての安全策だ。
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