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しかし、達也の目論見は外れ、十分経っても、二十分経っても、一向に白い影は現れなかった。
まさか、見えていない範囲を移動し続けているのか。そう思った達也だったが、いやそうじゃないと思い直した。
彼女は方向音痴であるが、決して諦める素振りは見せなかった。性格なのだろう。
そして方向音痴がゆえに、無作為に動き回っているはずで、校舎の端から端まで五分もかからない学校で、二十分も特定の一画を通らないというのは考えにくい。
何らかの理由でどこかで止まっていると考えるのが妥当だ。
そこまで考えを行きわたらせたところでやっと、達也は重い腰を上げた。
「無駄なことしたなあ」
自分に酔わず、凡人らしく足で捜索していればよかったものを、誰が見て評価してくれる訳でもないのにかっこつけた結果、五割増しでかっこ悪くなってしまっている。
達也はそんな自分を自覚しながら、それを引きずって歩く。
少女は今の達也の状態なんて知らないのだから、何食わぬ顔で探しに行けば良いのだが、あいにくと青春真っ盛り高校二年生男子はそこまで図太くないのだ。
(マジでどーしよ。二十分も待たせてるよ。やべー、マジやべー)
そして、実際は二十分以上待たせているかもしれないのに、自分が動き出した時刻からしかカウントしていないという身勝手さも兼ね備えている。
とはいえ、責任を放り出してもそこまで責められることはないだろう道案内というボランティア活動に従事していることは殊勝と言えるかもしれない。
全国の全男子高校生がそうと言う訳ではないだろうが、男子高校生は大体こんなもんだ。
女子から見られる、評価されることに異常に敏感になる。言ってしまえば、モテたいのだ。
だがどうだろう。必要のない見栄を張ったこの男は、限りなくダサい。
それだけではない。達也を今突き動かしているのは、白衣のあいつに申し訳ない、が半分。このまま帰ったら、あの渡辺って先生がうるさそうだしな、というのがもう半分だ。
荒木達也は、所詮この程度の男なのである。
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