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達也が、とりあえず他の校舎に移動しようと渡り廊下に差し掛かると、一番遠い校舎に白い人影を見つけた。
背格好からしてみても、間違いなくあの白衣の少女。達也は比較的目は良い方なのでそこそこ離れていても見分けがつく。今ばかりは、達也は自分の目の良さを呪った。
達也は、白衣が揺れるその位置に心当たりがある。
渡り廊下から校舎に入ってすぐの曲がり角。
そこには校舎全体の地図が貼り出してある。
なんて声をかけようか。なんて謝ろうか。回らない頭をフル回転させてショート寸前の状態で近づいていく。達也が近づいていることに気付いていないのだろうか、少女は地図を見たまま動かない。
その距離が二メートルを切ろうかというところで、かっこつけたい荒木達也は平静を装って精一杯の言葉を吐いた。
「おまえ、そんなにここ好きなの?」
肩をびくっと震わせる。数秒の沈黙ののち、うつむき加減に達也のことを確認し、力強く一歩踏み出すと、その細い腕をしならせるように大きく振り、
パァン!
ビンタした。
それはもう、廊下中に音が響き渡るような豪快な勢いで。された方の達也は意味が分からず、ひっぱたかれたそのままの姿勢で固まってしまっている。
「学校には八時十五分に着きます。学校までは制服を着た人を頼りになんとか着けます。ですけど、校舎に入ってしまうと全員が一年三組に向かうわけではないので、わたしはどうすることもできません。帰宅時もクラス全員が昇降口の方へ向かうわけではないのでたぶん迷います。なので先輩は、八時十分には校門でわたしを待っていて、帰りはホームルーム終了と同時にわたしを一年三組まで迎えに来てください。まるで忠犬ですね。駄犬にならないように頑張ってください」
「は、八時十分な。えっと、帰りは? 迎えに行けば、いいんだよな?」
「はい」
謝りに来た手前、怒るに怒れず、混乱してなんだか分からないまま、犬呼ばわりされたことにも気付かないまま、達也の校内での従者ポジションが決定された。
「とりあえず、昇降口までお願いします。先輩」
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