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「一通り思い出してみた訳だけど、やっぱ自己紹介なんてしてないんじゃね?」
自転車を押して歩く達也は、隣を歩くいまだ名前を知らない少女に質問を投げかけるが、返ってくるのはメガネ越しの睨みだけで、答えようとはしない。
これ以上追及したところで何も出てこないことが分かるくらいには、白衣の少女と仲を深めた達也なので、まあいいかと話題を変える。
「そういや、友達できそう?」
「ペットのしつけに忙しいのでそんな暇ありませんよ」
「……もしかしてだけど、ペットって、おれ?」
達也が頬をひくつかせながら、身長差を埋めるように顔を近づけると、少女は無造作に達也の顔面を鷲掴み、グイッと押し戻す。
「近いです。ですけど、自分の立場を理解していたという点においては褒めてあげてもいいです。今ビーフジャーキーを持っていないので、明日あげますね?」
「いるかよ! つか、おれといるのなんて朝と放課後だけじゃん。その間はなにしてんの?」
なにを言っているのか分からないといった様子の少女は小首を傾げ、大きな目をぱちくりさせる 。
「なにって、授業に決まってるじゃないですか。いつでも女の人のおしりばかりを追いかけてる変態ストーカー先輩と一緒にしないでください」
「変態じゃないし、決まってないから!」
「ストーカーであることは認めるんですね?」
「そこも含めて否定したんだよ!」
「ではストーカーはみんな変態だと言いたい訳ですね。今すぐ真っ当なストーカーに謝ってください!!」
「真っ当なストーカーってなんだよ! 謝んねえからな!?」
「チッ」
少女は急に足を止めると、怒っているというより、不機嫌に達也を睨む。
達也も数歩遅れて足を止めて振り返ったが、睨まれている意味が分からずに「あれ、冗談とかじゃなく、ガチでストーカーに謝んなくちゃいけなかったの?」と変な焦りを感じている。
少女は数秒睨んだのち、ていっ、と自転車の後輪を蹴った。
「人の気も知らないで……先輩のせいなんですからね」
「えっ、なに? ストーカー? おれのせいなの?」
少女は、ていっ、と達也のすねを蹴った。
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