出会って一ヶ月近く経つんだが

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夕暮れの教室。 二人の生徒が向かい合って座り、それぞれが文庫本を手にして静かに夕日に照らされている。時計の針が進む音と、紙の擦れる音だけが教室にぽつりと響く。 四月の末、窓をあける必要はなく、教室のドアも閉めきっている。空間的に、雰囲気にも密閉されている。といった光景が見受けられた。 二人は気にもとめない。 グラウンドから聞こえてくる運動部の活気に満ちた声も、吹奏楽部が遠くへ遠くへと飛ばそうとする大きく澄んだ音も、廊下をかけていく男子生徒の足音も、目の前に座っている人物にさえも。 ぱたり。 二人のうち、眼鏡をかけ、制服の上に白衣を羽織った少女がわざと音が鳴るように本を閉じ、やる気なさげに顔をあげた。 「先輩、飽きました」 先輩と呼ばれた男子生徒は本から目を離さない。集中しているわけではない。ただ、反応するのが面倒なだけだ。 それを示すように男子生徒は、女子生徒が視界に入らないように目の高さまで本をあげた。これで視界いっぱいを文字の羅列が支配してくれる。 「先輩に飽きました」 男子生徒は眉をピクリと動かしたが、ページをめくることでなんとか気持ちを落ち着かせる。 「先輩にも飽きました」 その一言で男子生徒はようやく本を閉じ、やる気なさげに女子生徒を見据える。 「にも、ってありえないだろ」 「ありえないなんてことはありえません」 一拍おいて、女子生徒に盛大にため息を吐きかける。なに言ってんの、言い訳にもなってねーよ、バーカ。という男子生徒の思いが伝わったのか、女子生徒は煙たそうに顔をしかめる。 「なんですか」 「おまえ、おれ以外に友達いないじゃん」 「せ、先輩だって……!」 「おれはクラスメイトとの関係は良好なの」 悔しそうに唸る女子生徒を気にもとめずに男子生徒は文庫本をかばんに入れ、席を立つ。 「おれは帰るけど、おまえは?」 なにが気に食わなかったのか、女子生徒は顔を真っ赤にして立ち上がる。 「いつまで……いつまでわたしのこと『おまえ』って呼ぶつもりですかっ!?」 その怒りに男子生徒は狼狽えることなく、戸惑うことなく、言い淀みなく、ただ事実を述べる。 「だっておれ、『おまえ』の名前知らないし」 「へ……?」
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