友達はいた方がいいと思うんだが

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学年が変わって一か月、白衣の少女の噂は浸透しつつあった。 「一年生にいつも白衣を着てる子がいるらしいぜ」 「その子、すっごい可愛いらしいよ」 「でも、めっちゃ不愛想らしいじゃん」 「それに、毒舌すぎて友達がいないとか」 昼休み。二年五組の教室でそんな会話を耳にした荒木達也は「さすが変人」と一人で笑う。 いつも噂の彼女の近くにいる達也だが、彼女を悪く言っているクラスメイトに対して、憤るなんてことはない。 ほとんどが事実であり、達也自身もまわりが噂しているようなことを腹に抱えていたりするからだ。 おまえの態度が招いたことだ。思う存分悪く言われるといいさ。 とでも思っているのだが、またしても彼は気付いていない。噂の近くにいることがどういうことなのか。 誰かが言った一言で、達也の心臓は悪い意味で速度を上げた。 「あっ、あと彼氏いるんだって。その子」 「え、マジ? 学校始まって一か月しか経ってないのに?」 「しかも、上級生だって話」 「部活の後輩に聞いたんだけど、毎日教室まで送り迎えしてるって」 達也は思い出していた。始業式の日、自分が先生に何を必死に訴えたのかを。達也はまさに今噂になっている人間の話をクラスでしてしまっているのだ。 冷や汗なのか脂汗なのか、よくわからない液体をダダ漏れにさせて、自分も席に座ってうつむきながら目だけで周囲を確認する達也は、気付くな気付くなと小声で怯える。 「よお、荒木」 「おぉおう!?」 後ろから達也に声をかけたのは、短い髪をワックスでいい感じにまとめている笑顔のまぶしい男子生徒だった。その男に見覚えのある達也は、緊張が解けて、机にへたり込む。 「驚かせるなよ、橋田」 「いや、荒木が驚きすぎなんだって」 橋田修一。 達也と同じ中学出身であり、そのよしみで高校に入ってからは達也と話すことも多くなった。今年度はクラスも同じで、二人でいることもしばしばだ。 そして、そんな彼には遠慮がない。 「荒木、おまえってモテるんだな?」 「は?」
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