友達はいた方がいいと思うんだが

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達也は目をごしごし擦ったり、何度も瞬きをしたり、自分のほほをつねってみたりしている。 これは幻ではないかと。 決して広くはないこの学校で迷ってしまうほどの方向音痴が、この時、この場所にこんなにタイミングよく現れることができるはずがない。 杉浦静香の素晴らしい方向感覚を知っていたなら、誰もがこの状況を嘘だと疑うだろう。 しかし、静香は二年五組の前にいる。達也は大きな衝撃を受けていた。 達也は驚いている。 つい数十秒前までは静香との関係を隠したくて仕方のなかったマヌケは、取り繕うことなど忘れて、ただ驚いている。それどころか、喜んでしまっていた。 「杉浦……ここまで一人で来られたんだな! すげえじゃん!!」 「感動しないでください! なんかみじめじゃないですか!」 「だって、昇降口にもろくにたどり着けない杉浦が、おれの教室まで来たじゃん! 今日なら一人で帰れるんじゃね!?」 「勝手にテンション上げないでください! 無理ですよ、先輩がいないと絶対に帰れません! 今日もきちんと迎えに来てくれないと怒りますから!」 荒木達也はとことんマヌケである。 自分が今どこにいるのかを忘れている。自分がいる場所でなんの話がされていたのかを忘れている。そもそも誰と話していたかを忘れている。 「荒木先輩がいないと帰れない? やっぱりあなたたち、付き合っていたのねっ!?」 達也と静香が大声でやり取りしたために、クラスだけでなく廊下にいる生徒の注目も一身に集めていた状態で、美咲が余計なことを口走った結果、とんでもないパニックが起きた。 「荒木君の彼女!?」 「あの子白衣着てるぞ!」 「噂の上級生は荒木だったのか!」 「あの子、先輩がいないとダメみたいなこと言ってなかったか?」 「じゃあ、もう一人の女子は?」 「まさか荒木君、二股……!」 「うおぉぉぉおっ!! 荒木、うおぉぉぉぉお!!!!」 なぜか両腕を突き上げて叫ぶ橋田に何か言いたかった達也だったが、無意識に静香の手を取って逃げ出していた。 「先輩の手、湿ってます。気持ち悪い」 「とどめ刺さないでくれます!?」
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