友達はいた方がいいと思うんだが

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沼川田高校の屋上へは割と簡単に入ることができる。 解放されている訳ではないのだが、鍵が壊れていて、学校側も修理しないので誰でも自由に出入りできてしまうのだ。 しっかりと落下防止用のフェンスも設置してあるが、それ以上の対策はしていない上に高さもないので、飛び降りる際には苦労しないだろう。 そんな屋上に静香を連れてきた達也は、告白に失敗した男子よりもはるかに沈んだ雰囲気をまとっていた。 それを気にする静香ではないので、易々と酷いことを言ってのける。 「あの、手を拭きたいのでお手洗いに行ってもいいですか?」 「ここまで帰って来れる?」 「無理です。わたしは校舎内限定で先輩なしでは生きていけません」 即答だった。なんの言いよどみもなく言ったその言葉の後半部分に達也は頭を抱える。 「それ、さっきも言ってたけど誤解されまくりそうだからやめてくんない?」 「事実じゃないですか。誤解する方が悪いんです」 「いや、もうちょいだけでいいから、おれに気を遣ってくんないかな?」 「嫌です」 即答だった。 断固として譲らないです! というどこで我を主張してんだよ的な意思がありありと目に宿っていて、達也はため息と一緒に抵抗も吐き捨てた。 それとは別に気になることができた達也は、少し話題を変える意味も込めて、今さらだろと言われそうな質問をする。 「杉浦ってさ、移動授業の時はどうしてんの?」 「それは、どうやって次の教室まで移動してるのか、って話ですか?」 達也がうなずくと、静香は白衣に手を入れ、不機嫌そうに口元をもごもごと動かす。 「……ついていくんです」 「誰に?」 「体育ならクラスの女子についていけばいいだけですし、選択授業のときも同じ要領でどうにかなります」 「苦労してんのな、何かと」 ぼんやりとそんなことを口にした達也は、ぼんやりとした疑問が浮かんできてなんの考えもなくぼんやりと言ってしまった。 「じゃあ、さっきおれのクラスまで来れたのも、その要領か。全然ダメじゃん」 笑顔の後輩は足を振りかぶる。 えいっ、と。
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