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それに、達也はあの安藤美咲という少女についての情報を、本当に『見た目がきれいな下級生』しか持っていなかったから、それ以上は何も言うことができなかっただけであって、静香に気を遣ったとか、安藤美咲の本性を見抜いたとか、そういうことではない。
ただ、上級生のクラスに単身乗り込んできて、杉浦静香には聞かれたくない話を彼氏だと思い込んでいる荒木達也に持ち掛けようとした、そんな物騒な発想を持ち合わせている安藤美咲は、きっとろくでもないやつだと、本能で感じ取っただけなのだ。
そんなことを知ってか知らずか、静香は仕方ないといったふうに一度小さくうなずくと、ぽつぽつと語り始める。
「なにかとあの人、わたしに因縁をつけてくるんです」
「なに、なんかしたの?」
「知りませんよ。最初に話しかけられたときにはすでに嫌な人でした」
達也は自分から気にしておいて、たいして興味がなさげに「ふ~ん」とテキトーな相槌を打つ。
「心当たりと言えば、成績のことですかね」
「成績? 中間テストはまだ先じゃん」
「この時期の成績と言えば、入試に決まってるじゃないですか。やっぱりバカですね」
「ああ、そっちね」
とは言いつつも、達也にはまだ違和感が残っている。 入試の結果は、知ろうとするなら本人に聞けば良いが、そもそも細かく点数を覚えている生徒は少ない。
さらに静香に関しては、点数を聞かれたとしても答えるはずがない。ピンポイントで静香だけに成績を聞くのは不自然であるし、成績が劣っていたという理由だけで、極端に嫌うというのも不自然だ。
漠然と「なんかおかしくね?」としか考えない達也は、首をかしげる。
「あの人、入学式で『新入生代表』として話してましたし、それなりに自信があるんでしょうけど……」
「って、ちょっと待て。新入生代表って、入試での成績優秀者が選ばれるっていう、あれ?」
「はい。そのあれで合ってますよ」
「じゃあなに、杉浦はそれよりも成績優秀なの?」
「トップ合格ですから、わたしの上はいませんね」
達也は、めまいを感じた。
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