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達也は、前々から静香のことをかわいそうとまではいかなくとも、不便な性質してんな~、というふうには思っていた。
方向音痴だというのに他人と馴れ合わず、基本的に助けを求めようとしないばかりか、お得意の毒舌をもってして周囲と自分を隔絶してしまう。悪循環だ。
そこまでは性格の問題だから、不便ですねで済むのだが、さてどうだろう。容姿が良く、成績優秀。この二点が加わるだけで、評価は『なんか残念』なやつに成り下がる。
容姿が良いのに毒舌。頭が良いのに方向音痴。
悪い評価の前に『のに』が付くだけで、その人物の評価には『落胆』というものが付いて回る。もともと良くない評価の上にさらに悪い評価が加えられることになる。
なにより、静香の道案内として機能している達也にとってこの情報は、普通のそれよりも遥かにがっかりさせた。
頭良いのに方向音痴ってなんなの、と。
静香本人からしてみれば、方向音痴に頭良いとか関係ありませんな話なのだが、そう思えるほど達也はできた男ではない。
「わたしにも新入生代表の話はきましたよ? 一秒で断りましたけど」
「だと思った」
達也は落胆している素振りは見せない。だって蹴られるんだもの。
「つか、なんであの子が杉浦の成績知ってんの? おかしくね?」
「わたしもそこが分からないんですけど、なにかの拍子に知ったんでしょうね」
「まっ、考えて分かるもんでもないか」
「そうですね」
実は、一年三組担任の渡辺が職員室で「うちの首席が……」と話しているところに偶然出くわしただけなのだが、この二人には知る由もない。
「それで、具体的にはなにされたんだ?」
「されたって訳でもないんですけど、首席だから遅刻なんて余裕なのねーとか、なんで白衣なんか着てるのよーとか、大勢の前で話す度胸もないのねーとか、地味な彼氏つれてるのねーとか、あんな男で妥協しちゃうのねーとか、あんなので満足なんだーとか……」
「そこそこ根に持ってるし、後半おれの悪口みたいになってるから!!」
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