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達也は渋い表情になりながら、落下防止用のフェンスにもたれる。
達也の中での安藤美咲という存在の印象は、最初よりさらに良いものではなくなっていた。静香の話だけを聞けば、間違いなく性格が悪い。何かにつけて嫌味を言ってくる近所のいじわるおばさん根性が染みついた女子高生。最悪だ。
「よくそんなのに耐えられるのな。おれだったら、二日で発狂するわ」
「わたしは大丈夫です。反撃しますから」
「今、急にあの子が大丈夫か心配になった」
これまで受けてきた『口撃』の数々を思い出して、達也はさらに渋い表情を作る。そんなことを知らない静香は、何を思い違ったかあごを上げ、ふんっと鼻を鳴らす。
「先輩よりは手加減してますから、問題ないです」
「ひどいこと言ってる自覚はあったのな! なら、やめてくんない!?」
「それにケンカ売ってきてるのは向こうです。正当防衛ですよ」
「シカトですか。まぁ、過剰防衛にならなけりゃいいけど」
過剰になってるから自分のところに来たのではないかという考えを、達也は面倒だからと思考の淵へと投げ捨てる。ついでに息も吐き捨てた達也を見て、静香は白衣のポケットに手を入れて、パタパタとあおぐ。
「つか、そんなに性格悪いなら、あの子も友達いなかったりしねえの?」
自分より成績がいいから、その子に彼氏――正確にはらしき人――がいるから嫌味を言う。直接被害を受けなくても、あからさまに嫌がらせをしている人間と仲良くしようとする人は少ない。
しかし、風に髪をなびかせながら、静香は首を横に振る。
「あの人は、わたし以外とは全体的に仲良くできてると思います」
「マジで? 一年三組こえーわ」
達也は自らを抱くように肩をすくめて、わざとらしく震えてみせる。それは静香の気を楽にしてやろうという狙いがあったのだが、静香の表情は動かない。
「そうじゃないんですよ、先輩。わたし、嫌われてますから」
あまりにも変化がなさすぎた。その言葉には、悲しみも、怒りも、寂しさもなく、ただ事実としてそうだということだけが伝えられた。
「やっぱ、一年三組こえーよ」
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