友達はいた方がいいと思うんだが

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これはマズイ。 達也は逃げるか隠れるかの選択を急いだが、そんな暇もなく美咲は「あっ」と小さく声を漏らすと達也に駆け寄ってきた。 「荒木先輩、お時間よろしいですか?」 一拍遅れたが、静香は達也の横に立ち、美咲に対立するような構図を作り出す。 「いいえ。先輩はわたしと帰るんです」 達也は今すぐにでも逃げ出したいが、そんなことが許される雰囲気ではない。 この二人の対立の理由が自分だからというだけではない。廊下にはほかの生徒もたくさんいて、野次馬根性むき出しで集まってきてしまっているからだ。 この状況下で二人を置いて駆けだせば、間違いなく『逃げた』と思われる。実際にそうなのだが、そこに付随するであろう『かっこ悪い』という印象が達也をこの場に留まらせていた。 「だから、いいでしょ!? 一日くらい!!」 「よくないです! あなたはわたしを死なせたいんですか?」 「なによ、死ぬほど好きとでも言いたいわけ!?」 「ち、違いますっ!! わたしが言ってるのは物理的な話です!」 達也は小さなプライドを守ろうとした自分を恨んだ。 今、この瞬間にも誤解が急速に広まっている。静香の言う死ぬというのは、道に迷い続けてそのまま飢え死にを迎えることを指しているのだが、そんなことを美咲は知らない。だから、 「一日でも下校デートができないと、わたしさみしくて死んじゃう。きゃるるん」 とでも静香が言っているように聞こえたのだ。むろん、周囲の野次馬も同様だ。ざわめきは広がる。 達也の目は泳ぎ、のどはカラカラに乾いていく。平凡な達也にはどうすればこの場を収められるかなんてことは浮かぶはずもなく、混乱してどうにかなりそうだった。 「ほら先輩、わたしと帰るのは義務みたいなものですよね?」 「え、え? まあ、そう、だなー」 片言が災いしたのか、静香は焦って自分が優位に立てるであろう言葉をとっさにひねり出す。 「せ、先輩っ! いつご両親に会わせてもらえるんでしたっけ?」 ガララと一年三組のドアが開く。 「え、なに? 君らふたり、付き合ってたの? いつからいつからっ!?」 興奮気味の二十九歳独身、渡辺教諭がこの場の誰よりも目を輝かせていた。
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