2248人が本棚に入れています
本棚に追加
/295ページ
男子生徒は教室を出た。
彼はいたって普通の人間である。高校二年生。身長169センチ。体重57キロ。短くも長くもない中途半端な髪形。一重まぶた。低くはない鼻。すこし口角の下がった口。お世辞でもシャープとは言えない輪郭、体型。加えて、成績は平均か赤点すれすれを量産する。本当にどこにでもいるような、普通の男子高校生。
ただ一つ、普通でない点を挙げるとすれば、
「こんな美少女おいていくなんて、どういう神経してるんですか?」
白衣の女子高生が連れにいることであろうか。
「ねえ、聞いてます?」
「聞こえてるぞ?」
男子生徒は女子生徒に一瞥くれてやると、それ以上の反応見せずに前を向き、淡々と歩いて行ってしまう。女子生徒は両手で眼鏡の位置をなおすと、小走りで男子生徒の前に躍り出る。
「待ってください、荒木先輩っ!」
男子生徒は立ち止まり、驚きから目を見開く。
「おまえ、おれの名前知ってたのな」
「荒木達也、で合ってますよね?」
「お、おう」
女子生徒のおどおどした態度に、達也はなんだか固くなってしまう。しかし一転、女子生徒は口をとがらせてズイっと達也に詰め寄る。
「そ・れ・で! どうして先輩はわたしの名前を知らないんですかっ!?」
「どうしてって……おまえ、名乗らなかったじゃん」
沈黙。
女子生徒は達也に視線をおいたまま、ゆっくりと白衣のポケットに両手を突っ込み、パタパタと白衣をはためかせる。対する達也は、ほら、言い訳でもなんでもしてみろ。とでも言いたげに、その様を何も言わずにジッと見つめている。
しばし時間があってから、女子生徒は手の動きを止め、視線を床に落とす。もう一度達也に視線を向けるころには、きりりと決め顔を作っていた。
「このわたしが名前を言い忘れるなんてありえません!」
「ありえないなんてことはありえないんじゃなかったっけか?」
「う、うっせえです! 冴えないくせにっ!」
「それ関係なくねっ!?」
いがみ合うように顔を近づけていくと、女子生徒はハッとその場から飛びのき、コホンと咳払いをする。
「とにかく、思い出してみましょう。必ず名乗っているはずです」
「まあ、いいけど」
最初のコメントを投稿しよう!