おまえの名前を知りたいんだが

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男子生徒は教室を出た。 彼はいたって普通の人間である。高校二年生。身長169センチ。体重57キロ。短くも長くもない中途半端な髪形。一重まぶた。低くはない鼻。すこし口角の下がった口。お世辞でもシャープとは言えない輪郭、体型。加えて、成績は平均か赤点すれすれを量産する。本当にどこにでもいるような、普通の男子高校生。 ただ一つ、普通でない点を挙げるとすれば、 「こんな美少女おいていくなんて、どういう神経してるんですか?」 白衣の女子高生が連れにいることであろうか。 「ねえ、聞いてます?」 「聞こえてるぞ?」 男子生徒は女子生徒に一瞥くれてやると、それ以上の反応見せずに前を向き、淡々と歩いて行ってしまう。女子生徒は両手で眼鏡の位置をなおすと、小走りで男子生徒の前に躍り出る。 「待ってください、荒木先輩っ!」 男子生徒は立ち止まり、驚きから目を見開く。 「おまえ、おれの名前知ってたのな」 「荒木達也、で合ってますよね?」 「お、おう」 女子生徒のおどおどした態度に、達也はなんだか固くなってしまう。しかし一転、女子生徒は口をとがらせてズイっと達也に詰め寄る。 「そ・れ・で! どうして先輩はわたしの名前を知らないんですかっ!?」 「どうしてって……おまえ、名乗らなかったじゃん」 沈黙。 女子生徒は達也に視線をおいたまま、ゆっくりと白衣のポケットに両手を突っ込み、パタパタと白衣をはためかせる。対する達也は、ほら、言い訳でもなんでもしてみろ。とでも言いたげに、その様を何も言わずにジッと見つめている。 しばし時間があってから、女子生徒は手の動きを止め、視線を床に落とす。もう一度達也に視線を向けるころには、きりりと決め顔を作っていた。 「このわたしが名前を言い忘れるなんてありえません!」 「ありえないなんてことはありえないんじゃなかったっけか?」 「う、うっせえです! 冴えないくせにっ!」 「それ関係なくねっ!?」 いがみ合うように顔を近づけていくと、女子生徒はハッとその場から飛びのき、コホンと咳払いをする。 「とにかく、思い出してみましょう。必ず名乗っているはずです」 「まあ、いいけど」
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