おまえの名前を知りたいんだが

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「どうかしたのか?」 達也はすこし先輩を意識して声をかけた。白衣ではあるが、シルバーフレームのメガネがかかった横顔はとても成人しているようには見えなかったからだ。 そう考える一方で、三年か先生だったらどーしよ。やべーよ、マジやべーよ。などと小心者全開の思考でもって、脇の汗腺も全開な達也は息をのむ。 こちらを向いた顔には明らかな警戒心があった。 それもそうだ。授業時間中なのに廊下を歩いていて、なんの躊躇もなく女子生徒に声をかけたんだから、そういう態度をとられても仕方がない。 そう思った達也だが、彼は気付かない。授業時間中に教室にいないことと、学生であるのに白衣を着ていることで、その女子生徒が自分よりもはるかに怪しい存在だということに。 気付かなかったことに言い訳をつけるとしたなら、怪訝な表情を浮かべる彼女が外見的に優れていたからというところだろう。 くりっとした二重まぶたの目に小さな口、きれいな鼻筋。つやのある黒髪は肩くらいまでさらりと伸びている。身長は160センチないくらいで、白衣からのぞく脚は白く、とても細い。 つまりは「かわいいな~、この子」と思って呆けてしまった達也の過失だ。 達也は、言い訳がてら警戒心を解いてもらうため、自分がここにいるワケを話すことにした。 「おれは担任にプリント取って来てくれって頼まれてここにいるんだけど、そっちは?」 噛まずに言えた! つか、緊張してる感じとか伝わってないよね、大丈夫だよね? 心の中ではひとりで舞い上がっていた達也であったが、女子生徒の反応は想像していたものの斜め下をいくものだった。 「聞いてもないこと話し出さないでください。気持ち悪いです」 なんの表情もなく、録音されていたものが再生されたのではないかと思うほどスムーズに流れ出たこの二文で達也は素直に傷ついた。 同時に認識を改めた。 臆面なく初対面の人間に気持ち悪いといってしまうようなこいつは全然、まったく、これっぽっちもかわいくない。 美少女もどきだ!! と。
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