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こいつは気遣ってやるに値しない存在だと認めた時点で、達也は目の前の『もどき』の扱いのランクを三つほどいっきに下げた。
それはもう、さっきまで舞い上がっていた自分につばを吐きかけてやりたいぐらいの気分になるほどの変わりようだ。
「おれのことは置いといて、おまえ、こんなとこでなにしてんの?」
「べつに、どうということはありません」
イラッとした。
地図の前にいた時点で、まあなんとなくそういうことだろうとは分かっているのだ。それでも達也は核心には触れてやらない。どうということはないそうなので触れてやらない。
ここですこしでも優しさを見せると負けな気がする。だから、達也は違うところに触れてやることにした。
「つか、なんで白衣?」
「衛生的じゃないですか。あなたの口から出ている微細な飛沫や菌をなるべく肌に付着させたくありません。汚いですから。あと、同じ空気を吸いたくありません。視界にも入れたくありません」
もはや、言い返す気力すら失われてしまった。心にダメージを負ったということではない。
あきれた。
その一言に限る。それこそ「べつに」の一言で片づけてしまえばよかった質問に対して、どうしたらそこまで嫌われるような返答が出てくるのか。
達也にはよくわからなかった。ただ感情が伴っているだろうことには気づいたから、勝手に推測して返事をした。
「つまり、話しかけるなと……」
無駄に先輩面して親切心なんて見せなきゃよかったかな、と部活にも入っていない達也は今後後輩に積極的に関わらないでおこうと心に決めながら、白衣の横を通り抜ける。
「ちょっと待ってください」
待てと言われて素直に止まってしまった達也は、ふつうに悔しかったので皮肉の一つでも言ってやろうと思い、ふり返る。
「なんだよ、視界にも入れたくないんだろ?」
「もちろんです」
「さようなら」
「だから、一年三組がどこかを教えてから消えてくださいって言ってるじゃないですか!!」
「言ってないからね!?」
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