おまえの名前を知りたいんだが

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白衣の少女は鼻息荒く達也を睨み付けた。つもりなのだろうが、達也の方へ一歩踏み出したことと、メガネがずれてしまっていたせいで、達也からのアングルでは、ただの上目づかいになってしまっていた。 怒っていることは達也にもしっかり伝わっていても、遠慮や戸惑いのせいでおどおどしながら眉間にしわを寄せてしてしまっては、どうがんばったって迫力にかけてしまう。 そのおかげで、お叱りの言葉を聞く前に達也は吹き出してしまった。 「ぷっ。ぜんぜん怒れてねえじゃん」 「なっ……! とことん失礼な人ですねっ! 怒ってます、怒ってますよ!!」 顔を赤くしてむきになったところで、今の達也にとっては逆効果だ。さらにメガネはずれ、慌てたことで面白さが増してしまっている。 「わりぃ、わりぃ。あと、メガネずれてんぞ。ぷっ、くくっ」 限界まで頭に血をのぼらせた少女はキュッと音を鳴らして回れ右をすると、少しうつむきながら両手でメガネの位置をなおす。メガネに手を添えたまま深呼吸をすると、静かに振り返り、お腹を抱えながら笑っている達也に近づき―― 「えいっ」 「っっ、てぇ!!」 その細い脚で達也の右すねを蹴った。お腹を抱えていた達也だったが、今度はうずくまるようにすねを抱えるはめになり、涙目で少女を睨み付ける。 「なにすんの!? すっげぇ痛いよっ!」 「自業自得です。こんな美少女をもどきと言った挙句に、こけにした罰です。天罰です」 「どっちかっつうと制裁だろ、これ。いてぇー……」 凶悪な一撃によってズキズキと主張してくる痛みに耐えながら、達也は立ち上がり、大きく息をつく。 「息をはきかけないでください。クサいですから」 「帰る」 蹴られたすねがよほど痛むのか、達也はびっこをひいて歩き出す。顔はあくまでもポーカーフェイス。痛くなんかないぜ。と、やせ我慢するのは男のくだらない意地だ。だが、少女にはそんなことは関係ない。 「えいっ」 「~~っ!! なんなの、おまえ! マジでっ!!」 すねを蹴った少女は、満足そうに達也を見下ろしている。
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