誓い

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あれからサトルのお陰で 仕事を辞めることもなく 毎日平和な日々を送っている。 今、思えば『あんな事』で命を断とうとするなんて、 なんて浅はかだったのか。 とさえも思える。 心配してくれる、同期や同僚がいたのに。 27歳にもなったいい大人が失恋で自殺だなんて、 そんな事を考えた自分が恥ずかしい。 だけど、 愛している人に裏切られることは 本当に辛いことなのだ。 何度謝られても、 友達に慰めてもらっても、 この傷は癒えることはない。 人を愛することに臆病になっていることは 自分が一番よく分かっている。 また傷つくのが怖くて踏み出せずにいた…。 3月になったある日の夜、 サトルが部屋に現れた。 「ちーさとっ。」 「サトル…久しぶりだね。もう諦めてわたしから離れてったのかと思ってたよ。」 皮肉を込めてサトルに言う。 サトルは相変わらず歳に似合わない笑みを浮かべて わたしの皮肉は気にもせず答える。 「ユーレイも色々忙しいねん。 それより、千里、屋上に星見に行かへん??」 「はぁ?星?今から?なんで?」 思い切り嫌そうに返事するわたしを見てもサトルの意志は変わらないらしい。 「早く用意して。 3月でも夜はまだ冷えるからなぁ、 あったかいかっこして行きや。」 行く気満々のサトルの言葉に押されしぶしぶジャケットをはおり、 ブランケットをトートバッグに 突っ込んだ。 こんな時間に一人、屋上にあがっていく姿を見たら きっとみんな不審に思うだろう。 サトルの姿はみんなには見えていないらしいから。 見覚えのある屋上のドアを開ける。 サトルと出会ったあの日以来 ここには来ていなかった。 開けた途端、ビュヨーっと変な音とともに風が吹き抜ける。 もちろん真っ暗なのだけれど、 都会の明かりがあちこちで カラフルに光っているせいで、 星なんて全然見えない。 持ってきたブランケットをお尻の下に引いて 体育座りで屋上のコンクリートの上に座り壁にもたれる。 ブランケット越しでもコンクリートの冷たさが伝わってくる。 「で?サトルは何がしたいの?」 寒さのせいで 不機嫌な声で問いかけるわたしの横にサトルは腰を下ろした。 「オレが死んでなかったらなぁ… ぎゅってしたるのにな。」
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