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サトルが恥ずかしげもなくそんなことを
言うから。
少しドキッとしてしまう。
「星…見えへんなぁ…
ここ(東京)は明るすぎる」
「サトルは、生きている時は
星がよく見えるところに住んでにいたの?
…なんで死んじゃったの?」
今まではあまり自分の事を語らないサトルだが、
なんだか今日は話してくれるような
そんな気がして
思いきって聞いてみる。
サトルは初めて
生きていた時のことを話しだした。
「…オレ生まれは奈良の田舎やねん。
そん時は星もよく見えたなぁ。
働きだしてからは大阪で暮らしてた。
…結婚して、子供にも恵まれて
幸せな人生送っててんけど。
人生これからって時に病気なって…。
最期の方は病院で寝たきりの生活でさ、
しんどかったなぁ…
治療のしんどさは自分が耐えれば済むけど、
嫁と、中学にあがったばっかの息子が
辛いのを我慢して笑う姿見るんが一番辛かった。
生きてるのがしんどくて。
でも家族と別れるのは嫌で。
矛盾した気持ち抱き続けたまま生きてた。
だから。
千里みたいに元気で生きれるのに
自分から命捨てようとする奴が一番許せへん。」
そこまで言うとサトルは話すのをやめた。
わたしは声を出さずに、ただただ流れ落ちる涙を
体育座りした膝で受け止めていた。
「ごめん、千里…泣かせるるもりはなかってんけど…」
サトルがいつもの困ったような顔で寂しそうに笑う。
「サトル…
わたしこれからは一生懸命生きるから…」
「千里は次はいい恋愛しやんとな。」
そう言いながら
サトルはわたしの頭をポンポンとする…仕草をした。
サトルは生きているわたしたちに触ることができない。
だから、わたしが自殺しようとした時も手を差し伸べることをしなかった。
物にも触れない。
あとからそのことを聞いて
幽霊だから、そんなものなのかな。
と思っていたけれど。
この夜わたしは初めて
サトルに触れてほしいと思った。
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