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「部屋戻ろか。大事な千里に風邪でもひかれたら困るしな。」
サトルがすっと立ち上がる。
相変わらず手は差しのべてくれないけれど。
優しい笑顔をこちらに向けて。
「ちさと。行くで。」
とあの関西弁で柔らかく呼び掛ける。
この笑顔が
今、この瞬間だけは
確かにわたしのための笑顔だと信じてる。
結局、星はほとんど見えなかったけど。
サトルがわざわざ屋上まで連れ出した理由がなんとなく分かった気がした。
サトルは
わたしが自殺しようとした、この屋上で
もう二度と自殺なんて考えない、と誓わせたかったのかもしれない。
「あー体冷えたっ。」
部屋に戻るなりまた可愛くない態度をとってしまうわたし。
ミルクをコップに入れてレンジに入れる。
「千里のさっきまでの泣き顔は可愛かったのになぁ。」
と、
サトルも負けじと返す。
「ば、ばかっ」
からかわれているのは
分かっているのに。
サトルに調子を狂わされる。
女子高生じゃあるまいし、
27歳にもなって、
ドキドキするなんて。
しかも相手は幽霊。
_____________
姿は見えなくても近くにいるのを感じる。
「サトル…?」
ベッドの中で意識が薄らぐ中、
呟いてみる。
「ん?」
暗闇の中からサトルの声が聞こえる。
「…ありがとね。」
そう呟くと、
「おう。」
と
照れ臭そうなサトルの声が聞こえたので、
安心して
わたしは夢の中へ吸い込まれていった。
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