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「咲子…アイツは昔の彼女なんだけど、付き合ってた奴にフラれてひどく落ち込んでて…それで俺を頼ってきて。」
そんなこと聞いてない。
聞きたくない。
目をそらせて足元をじっと見る。
もうこの場から離れたいのに。
階段の踊り場で足が動かない。
「千里…俺…」
優斗が言い終わらないうちにわたしは
大きな腕に包まれていた。
「子供ができて責任とって
結婚することになったけど
今でも…」
「やめてっっ!!」
優斗の腕を乱暴に振り払う。
あの包み込むような
たくましい腕が好きだった。
身体に響くような低い声が好きだった。
だけど、もうなにも感じない
ナニモカンジナイ。_____
はっと気がつくと
傷ついた顔をして立ち尽くす優斗が目の前にいた。
「千里…ごめん。」
その一言を残して彼は階段を降りていった。
サトル…
会いたいよ。
「サトル…いる?…」
一人残された階段で小さな声で呼んでみる。
「…おるよ…。大丈夫?
とりあえず、仕事戻らな。
話は帰ってからゆっくりしよ。
な?」
姿は見えないけど、
サトルの諭すような声に小さく頷いて
腕時計を見ると
昼休みを10分オーバーしている。
あわてて階段をかけあがり事務所に戻ると、
もう優樹菜はデスクに戻っていて
『どこいってたんですか』
と目で問いかけてきた。
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