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「…だいじょーぶ?」
手をさしのべるでもなく、
男のひとは上からわたしを見下ろしている。
情けない。
死ぬこともできなかった悔しさが
沸き上がってきて
わたしはキッと斜め上を睨み付ける。
「なんで、邪魔したんですか」
半分八つ当たりのような
わたしの怒りのこもった問いかけにも
男のひとはサラリと答える。
「千里に死んでほしくなかったからやん。
それ以外に理由いる?」
「なっ…なんでわたしの名前」
悪びれもせずに男のひとは言う。
「鈴木 千里(スズキ チサト)。
ちなみに知ってるのは名前だけちゃうで。
27歳OL。
なんで千里が
自ら尊い命を断とうとしたか…も。
」
その言葉になんだか、頭がカーッとした。
「なんでそんなこと知ってるの?!
アナタ誰よ!」
わたしは生まれも育ちも千葉県で、関西人の知り合いなんていない。
会った覚えもない。
相変わらず余裕の笑みで
わたしを見ているその人は
わたしより少し年上ぐらいだろうか。
短い髪と、笑うたびに覗かせる白い歯がよく似合う爽やかな顔立ち。
2月の寒空の下だというのに、
眩しいほどに白いシャツ一枚を
ラフにはおっているだけだ。
スラッと伸びた長い足に
カジュアルな黒いパンツと
スニーカーがよく似合っているのだが…。
(なにこの人…怪しすぎる…)
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