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「とりあえずさぁ、部屋に戻らん?
千里、寒いやろ?」
寒いのは自分でしょ?
ってかこの人、このマンションにわたしの部屋があることも知ってる…?
まさか…ストーカー…
思い切り不審者を見る目付きでその男のひとを見上げる。
「そんな目で見るなって。」
そう言いながら今度は困ったような顔で笑う。
不覚にもその顔が少し可愛いなんて
思ってしまう。
だけど、
冷たい風がびゅーっと拭いて、
わたしの髪をなびかせた瞬間
わたしは急に我にかえった。
そうだ。
わたしは死のうと思っていたのだ。
生きてたってしょうがない。
こんな初対面のストーカーに構っていられない。
そのストーカー男の視線を痛いほどに感じながらも、わたしはフラフラ立ち上がる。
ここで死ねないなら何か別の死に方でもいい。
とにかくこの人から離れないと…
屋上の出口に向かって歩き出そうとしたとき
またストーカー男が口を開く。
「…鈴木 千里。
…年上の彼氏と付き合って3年目、
27歳にてようやくプロポーズされ、
半年後には結婚。
…と思ってたら、じつはその彼が浮気をしていたことが三日前に発覚。
婚約は破棄。
…しかも相手のお腹には赤ちゃんが…」
「…めて!やめてよ!!…何?!何なの!?」
ストーカー男のひどい言葉を
かき消すかのようにわたしは叫ぶ。
目頭は熱くなり
鼻の奥がツンとする。
勝手にどんどん溢れだして
頬を流れる涙を乱暴に手で拭う。
その様子を見てストーカー男はまた
続ける。
「今さら婚約が破棄になって、
しかも社内恋愛だった為、
会社に行くのが怖い、
実家にも帰れない。
何よりも、もう人を信じられない。…
で、仕事を休んで…
…死のうとした。」
全て事実だ。
「なんで…なんで…」
驚きと悔しさと辛さがいっしょくたに
込み上げてきてうまく言葉が出てこない。
「なぁ千里…ならその命、
一回オレに預けてみーひん?」
ストーカー男が初めて真面目な声で
わたしに言葉を投げ掛ける。
「…は?」
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